やまがたの若者向け地域活動情報紙WA-CHA   第3号

対談 子どもたちに「第三の居場所」を 菅原晴美氏×工藤美季氏

対談した人

工藤 美季 氏

若者サポーター、一般社団法人terra 代表理事 
元小学校教諭。型にはまらない子どもへの教育と支援を目指し、2022年にフルイドスクールや相談事業を開始。ホワイトボードミーティングR講師。天童市在住。


菅原 晴美 氏

若者サポーター、とまり木つくる会 代表
本業と子育ての傍ら、2019年から子どもの発達障がいについて安心して話せる「とまり木SALON」を開催している。鶴岡市在住。

 

誰もが受け入れられる、「やさしい」社会をつくりたい

多様性の時代、子どもたちにもさまざまな選択肢が必要になってきています。今回は、子どもたちや保護者の居場所づくりをおこなう、「一般社団法人terra」(天童市)の工藤美季さんと、「とまり木つくる会」(鶴岡市)の菅原晴美さんに、子どもを取り巻く環境と居場所づくりの必要性について伺いました。

工藤

教師を退職した後、個人事業でファシリテーション研修等をしていましたが、次第に子どもを取り巻く環境づくりを改善したいと思うようになり、令和4年10月に一般社団法人terra(テラ)を立ち上げて「フルイドスクール(フリースクール)」を始めました。令和5年2月にクラウドファンディングに挑戦して成功し、居場所の整備などを進めているところです。

菅原

私はボランティア団体「とまり木つくる会」を運営しています。私を含め、「発達障がいのお子さんを育てる親同士で話ができる場所を作りたい」というのが、サロンを始めたきっかけです。令和元年に初めてサロンを開催し、翌年の5月に団体を設立。令和4年には「山形市で同じような活動をしたい」という方から連絡を頂いて、山形サロンも開始しました。

 

不登校や発達障がいって、悪いことなの?

工藤

教員時代は、支援学級担任も経験しました。「支援学級の子」と、特別にみられることで親も苦しんでいました。不登校の親も同じですよね。

菅原

我が家も三人の子全員が発達障がいと診断されていますが、私はそれをオープンにしています。でも、自分の子が発達障がいと診断されたということを受容しきれない家庭もあるんですよ。やっぱり「親が悪い」とか、「子どもが育たないのは親の責任」という風潮があったから、余計に。上の子二人は学校に行ってないんですけど、不登校に関しても同じですね。

工藤

私、教員時代は不登校の子の親に「学校に連れてきてください」と何度も言っていましたけど、今思うと、ご両親に申し訳なかったなって思います。

菅原

うちも担任の先生に言われましたね。そもそも、「不登校」って症状(結果)じゃないですか。症状の原因がいじめなのか、発達特性なのか、体調不良なのか、原因によって対処が違うはずなのに、一律で「不登校」とされてしまうんですよ。

工藤

昔は「登校拒否」と言っていたんだけどね。実際、この名称のほうがしっくりくると私は感じているんですよね。とはいえ、学校は「来なくていい」とは言えないから、せめて私のような民間の団体が、「学校に行くのがしんどい時、ひと休みする場所があるよ」というのを作っていきたいですね。

 

お互いを承認しあえる「場所」

菅原

サロンを始めた目的が二つあって、一つ目は「親同士が共感できる場所をつくる」ということ。二つ目は、「発達障がいに対する社会理解を広める」ということです。極端に挨拶が苦手だとか、一般的に理解しにくい行動をとることがあっても、今の子どもたちが社会で働く頃には、もう少し受け入れる体制が整っている世の中になってほしいという想いがあります。その前段階として、親同士が話す場所がないと相談先が分からない。だから、共感の場所であり、情報提供をする場所が必要なんです。

工藤

わかります。保護者向けもだし、先生向けもそう。誰だって、お互いに承認しあえる場所が必要なんだと思います。私は子どもが自分で学校に行く日、家にいる日、フリースクールに行く日を選べればいいなと思っていて、そのためにうちは週2~3日のコースにしています。まだまだ利用者は少ないですけど。

菅原

私の場合はボランティアだし、みんな仕事をしながらだから日数も限られるし。今は曜日で分けて、鶴岡市で金・土に一回ずつ、山形市では不定期に開催していますが、親としては「相談するほどの問題じゃないだろう」という感覚もあって、すごくハードルが高いんだと思います。「勇気を出してきました」という方もたくさんいますし。それから、「母親が悪い」という風潮。これでお母さんの自尊心が下がってしまうんですよ。

工藤

おじいちゃん、おばあちゃんやパートナーの理解も大事ですよね。一緒に来てくれるのは、やっぱりお母さんが多いんです。でも、一番重要なのは「子どもが来たいと思っているか」。フリースクールや支援施設は県内でも素敵な場所がいっぱいあるのに、子どもの心が冷え切ってしまっていると足が向かず、誰も来ない場所になってしまうんです。

菅原

いくら親が連れて行きたいと言っても、行政が素晴らしい活動だと言っても、肝心の子どもが行きたがらないと成り立たない事業ですよね。私たちも長く活動を続けたいので、無理をしないことが大事だと思います。

工藤

そうですね、だからこそ、子どもたちと一緒に、親も私たちも楽しまないと。楽しい場所だって思ってもらうことが大事ですよね。

菅原

私も楽しんで活動しています! 企画を考えることが好きなので、向いているんだと思います。細かくて難しい部分は、得意な人にしてもらって(笑)。

とまり木サロンの様子

どんな子にも「やさしい」社会に

菅原

特性のある子って難しくて、些細な事で気分が変わったりするから、その状態を親がどこまで受容できるか、という問題もあって。親自身、「もし宿題ができなくても、まあいいか」ぐらいにゴールのレベルをもう少し下げてもらえたら、特性のある子も生きやすいんじゃないかな。騒がしい子で多少うるさいなと感じても、その子なりにきっと原因があるんだから仕方ないじゃないですか。そういう意味で、周りももうちょっとやさしい社会になって欲しいです。

工藤

子どもはうるさくて当たり前だからね。特性のあるお子さんでもゆっくり成長していけるんです。この間、うちに通っている人見知りをする子がお客さんに挨拶していて。小さな変化なんだけど、嬉しかったですね。お母さんも喜んでくれました。

菅原

変化に気がついてもらえるのって、保護者からすれば、めちゃくちゃ嬉しいことですよ。

工藤

あと、保護者面談もしているんだけど、不登校の子を持つお母さんに「お母さんがやりたいこともしていいんだよ」ってお話してるんです。この間、映画を観に行きたいと言って実際に行ったお母さんが、報告と一緒に「自分をほめてあげたい」って言ってくれて。

菅原

自分をほめるメンタルが素晴らしい! 自分のことをするのって罪悪感を感じる時もあるから、ほめたいと思えたのは工藤さんの働きかけのおかげですね。

工藤

子どもは行きたくなくて学校に行っていないわけだから、お母さんが無理に付き合わなくていいと思うんですよね。お母さんも自分の時間を作らないと、疲れちゃう。

菅原

子どもも親も先生も疲れてますよね。だから、「来てよかった」とか「勇気出して良かった」って言ってもらえると、とても嬉しいです。

terraで開催した「心と身体を整えるお灸学習」

これからの目標

工藤

目標は、不登校だと言われる子がこれ以上増えないこと。そのためにできることは精一杯やっていきたいし、いずれはどこに学びに行くかを子ども自身が選べるような環境になったらいいなと思います。

菅原

私はやっぱり、細く・長く、かな。三年やってみて、少しずつ認知が広がっていることを感じられるようになりました。あとは、自分を責めるお母さんが一人でも少なくなればいいな。そのためにも止まってはいけないと思っています。

 

若者の皆さんへメッセージ

菅原

難しく考えずにやってみるのがいいんじゃないかな。多分「やりたい」と思うっていうことは、気持ちのベクトルはその先を向いていると思うので、あとは一歩を踏み出すだけだと思います。イベントなら、日付を設定してSNSで投稿すれば、一気に拡散する時代ですから。機を逃さずに一歩を踏み出してみて、駄目ならやめたらいいんですよ。

工藤

居場所づくりって、場所がないとできないと思われがちだけど、私は初めは自宅でしていたんです。公民館でしている団体もあるし。だから場所をハードルと考えず、あとは「子どもに何かしてあげる」という感覚ではなく、一緒に楽しむスタンスのほうがいいかなと思います。

 

■一般社団法人terra

一人ひとりの可能性が未来へ伸びていくように、多様な学びの場を提案します。
https://terra1017.net/

■とまり木つくる会

子どもの発達障がいについて、安心して話せる場所を作っています。
https://tomarigisalon.wixsite.com/tomarigisalon


やまがたの若者向け地域活動情報誌「WA-CHA」vol.3
2023年6月 若者支援コンシェルジュ事務局発行