山形の若者の活躍や山形の魅力を発信する「やまがた若者応援大使」が、県内でチャレンジする若者に会いに行く『やまがた若者応援大使の“やまがた探訪Ⅱ”』。

今回は「ゲストハウス松本亭一農舎オーナーの佐藤恒平さん」が、真室川町を訪ねました。

#一般社団法人 雪と暮らし舎 佐藤萌以(さとうめい)さん(真室川町)編
【探訪者 佐藤恒平さん】

一般社団法人 雪と暮らし舎 佐藤萌以(さとうめい)さん

大使のやまがた探訪の取材の2回目をどこに行こうかと捜していたところ、最上郡真室川町で移住に関するサポートを行なっている「一般社団法人 雪と暮らし舎」さんが今年から新しい事業を始めるという噂を耳に。しかも、その仕事がなぜか「おはぎ屋さん」とのことで、この深まる謎を解明しようと取材に行ってみることにしました。

ということで前回(菓子職人 白田さん)に続いて僕が紹介するのは甘味のお店です。おはぎ事業のスタートを控えた雪と暮らし舎の佐藤萌以さんにインタビュー。最上地域で生まれずっと山形で暮らす萌以さんが手探りで見つけた「手間ひまの味わい」をご紹介します。

最上生まれ、最上育ちの「私」の変化と発見

ー今日はどうぞよろしくお願いします。萌以さんは生まれも育ちも最上地域なんですか?
そうですよ。真室川で生まれたのですが、新庄市内に引っ越して新庄で育ちました。それから山形市内のデザイン専門学校にも実家から通っていましたし、新卒でやはり新庄市内の印刷会社にデザイナーとして就職したので、私はずっと最上地域から出てませんね。
再び真室川に来たのは結婚がきっかけでした。夫の実家が真室川でしたので。

ー結婚のタイミングで移住した時にはおはぎ屋さんのアイデアがあったんですか?
いえいえ、自分でお店を開くなんて全く頭にはなかったんですよ。結婚を決めてから、真室川町内でデザインのスキルを活かせる仕事はないか探していたら、地域おこし協力隊※の求人があったんですよ。農家さんが加工食品を製造販売する6次産業化を支援する隊員を募集していたので、これまでの経験が活かせるなと思って応募したところ、ありがたいことに採用してもらって。

※地域おこし協力隊:地域おこしに関する業務を担うことで、最長3年間の活動費が国から支給される総務省の制度。協力隊採用には自治体ごとの要件がある。

ー最初は農産加工品のラベルをつくったりする仕事だったんですね。
はい。その仕事を通した出会いからたくさん影響受けました。伝承野菜を作っている農家さんたちをはじめ、地域の人たちと関わることで、それまでの一般的な消費者・生活者として触れてきた地域像とは違った視点や価値観とたくさん出逢うことができました。
そして、その中で運命のおはぎと出会うんですよ。

ーおお、ついにおはぎ出てきましたね!なんか特別なおはぎだったんですか?
地元のお料理名人のおばあちゃんが作ってくれた、沢胡桃のおはぎでした。これが本当に美味しくて。
高校生向けに体験型ワークショップを用意して、そのおばあちゃんと一緒におはぎを作ってもらったことがあるのですが、女子高生たちにも大好評だったんですよ。
ただ食べても美味しいのですが、特に、目の前のおはぎがお皿のうえにあがるまでのストーリーを知るともっと美味しくなっちゃうんですよ!

真室川で収穫されたおはぎの材料(手前が沢胡桃)

ーどんなストーリーなんですか?
まず、家の前に流れている鮭川の堤に沢胡桃の木が自生しているんですが、夏に胡桃の木の下の草刈りをするところから、おはぎづくりが始まります。すごくないですか?
秋になると胡桃が落ちてくるんですけど、草刈りしているから見つけやすいんですよね。これを拾ってきて、実を腐らせると種が取れます。これを沢水で洗って天日に干すと、保存が効くようになるんですが、料理に使いたいときに、水にさっとうるかしてから(うるかす=浸漬する)火にかけて乾煎りするんです。すると殻に隙間ができるので、そこにくるみ割り器を当てると殻が割れて、クルミをほじくり出せるようになります。ようやくお店で買える状態のクルミになるんです。
そういう手間ひまを決して苦痛なものとは考えず、美味しいものを食べるためには必要だからおばあちゃんは当たり前にされてるんですよね。そこがすごいなぁと思いますし、目の前のおはぎがたどってきた歴史、おばあちゃんのかけてきたその手間と時間を想うと、とても愛しくって嬉しくて美味しいんですよ。舌も美味しいし、心も喜ぶ、体も嬉しいというか。

おはぎに出会って、私はこういう手間ひまかける暮らしも豊かさのひとつなんじゃないかなって気づくことができました。そういうのをいいなって思ってくださる方って自分以外にも必ずいると思うんです。おはぎ屋さんをしたいなって思ったのは、そんな暮らしの豊かさをお届けする手段としてもとてもいい素材だと思ったからなんです。

試作のくるみおはぎ(現在試行錯誤中、販売品の見た目は変わる可能性があります。)

ー真室川の暮らしの豊かさを表現する手段として美味いおはぎはピッタリだったわけですね。
そうなんです。地域おこし協力隊員の活動として取り組むようになっていた伝承野菜の普及とも相性が良かったので、任期が終わったあとは、このおはぎを商品化する仕事がしたいなと協力隊員の最後の年にはみんなに言っていましたね。コロナ禍でなかなか進められない時期もあったけど、いよいよ今年会社を設立し、おはぎ屋さんをやれることになったんです。

ー平凡な質問になっちゃいますが、お店をはじめるってのは大変じゃなかったですか。
ひとりでやると思ったら絶対大変だったと思います。間違いなく。そもそも何からスタートしたらいいか1人では見当もつかなかったし。
だからこそ、個人の事業としてではなく、会社の仕事の一つとしてやっています。地域の方や行政の方にもたくさん相談して力を貸してもらい、店づくりや申請などの準備を進めてきました。
今はおはぎの師匠であるおばあちゃんと協力しながら、お店で出せるようにレシピを改良したり、お店をリノベーションして菓子製造の許可をとったり、忙しいけどオープンに向けての作業は楽しいですね。

ーおはぎのおばあちゃんも協力してくれているんですね。
師匠のおばあちゃんはレシピづくりに全面協力してくれていて、本当に感謝しきれないくらい力を貸してくれています。
日々の料理研究にもすごく熱心で、お友達と情報交換したり、流行りのお店に食べに行ったりと、探求活動も楽しんでいる方なんです。文明の利器もしっかり使いこなされているんですよ!笑

くるみのおはぎの美味しさの秘けつは、美味しくたべるためにおばあちゃんがしっかり手間ひまをかけていることなんだと思うんです。

手間ひまは雪が多いこの地域で暮らしていくなかで、食料が乏しくなる冬を迎えるために採れた食材を保存食に換え、工夫をこらして飽きずに美味しく食べていくために培われてきた知恵であり、ライフスタイルみたいなものかなと。

おばあちゃんたちがそんな風に手間ひまかけて作ることを、私たちは「こしらえる」って言葉で表現しているんですが、私はその「こしらえる」ことを仕事にしたいなって思ったんです。

こしらえる暮らしというコンセプト

雪国真室川の山・里・雪の恵みから育まれた素材を活かしたおはぎ

ーなるほど、萌以さんたちのおはぎ屋さんは「こしらえた」美味しいものと出会えるお店になるんですね。
そうなりたいなって思っています。
「こしらえる暮らし」って、実は私が所属する「一般社団法人 雪と暮らし舎」でも大事にしているキーワードなんです。雪と暮らし舎は移住のサポート(移住希望者の案内や、移住情報の発信)を事業のひとつとして取り組んでいます。魅力的な環境や特産で移住者を誘うよりは、移住してきた人たちが自分たちでじっくりとこしらえていくことが出来る暮らしこそが、移住希望者に届けたい価値観なんです。だから、移住推進の仕事をしている弊社の新事業に「おはぎ」ってなかなか繋がっているようには見えないかもしれないですが、自分たちのなかでは結構しっかりと繋がってるんですよね。
移住の仕事もあるからこそおはぎの仕事にも価値が生まれる。だから、こしらえる暮らしが多くの人に伝わるように、ゆくゆくはおはぎ以外の美味しいものもこしらえていきたい野望もあるんですよ。

ー 真室川の魅力である「こしらえる暮らし」のひとつの形がくるみおはぎなんですね。移住サポートとおはぎ、つながらなさそうなキーワードがやっとつながりました。そう考えると壮大な仕事ですね。
まあ言葉にするとそうですよね。でも実際に仕事としてやろうって考えた時にまず最初に考えたことはすごくシンプルでしたよ。 

ー最初に考えたこととは?
誰とするかということですね。

もともと、地域おこし協力隊員として伝承野菜の普及に取り組めたのも、おばあちゃんのおはぎに出会ったのも、地域おこし協力隊の先輩で移住推進の活動をしていた梶村さんのきっかけづくりやサポートがあったからなんですよ。二人三脚で活動しているなかで、お互いに一緒に仕事をしたいと話すようになっていたのですが、おはぎ屋さんをしたいなって言いだしたのはどっちが先だったか分からないくらいです。
お互いの目指したいことを話し合って、2022年の2月に一般社団法人を二人で立ち上げました。

1人だったらおはぎ屋さんをやろうとも思わなったかもしれませんね。 

社団法人を一緒に立ち上げたビジネスパートナーの梶村さん(写真右)

ーそれがこしらえる暮らしを大事にしたおはぎ屋さんへとつながっていったのですね。いよいよ販売開始も間近とうかがっていますが、いつからスタートなんですか?
はい、順調にいけば8月中旬に町のお祭りがあるので、お披露目もかねて臨時営業するところからスタートしたいなと思っています。テイクアウトはもちろん、店内でイートインできるスペースもつくって、お盆に帰省した方々にもぜひ食べてもらえたら嬉しいです。
通常営業を始める日取りはまだ決められていませんが、曜日を決めるなどして限定的なオープンから始めようかと思っています。 

ー開店たのしみですね。これからの目標とかはありますか?
そうですね。とりあえずは元気な赤ちゃんを産むことですかね。11月出産予定なんですよ。

ーそれは凄く大事ですね。でもそうなると、おはぎ屋は開店後すぐ休業ってことですか?
実はその辺はまだはっきり決めてないんですよ。誰か別の人を雇って営業を続けるか、それとも今関わっているメンバーで力を合わせて営業形態を変えていくか。出産が近づく中でお店をやりながら模索していきたいねって話しています。

ーなんだかそれ自然体でいいですね。新しい事業始める時って仕事に全力投球しなきゃって僕は勝手に思い込んでいましたが、実際にやりながらちょうどいい営業の仕方を見つけて言った方が、無理がないですよね。
ウチの仕事の在り方って、最上の暮らしの中に合わせてこしらえていくことなのかなって思っています。お客様のために長い時間お店を開けていることが必ずしも1番の正解ではないんじゃないかって。
実は使いたいと思っている地元の食材も供給量に限りがありますし、お客様だって毎日平均して来てくれるわけではないと思うんです。お客様になるべく不便をさせない工夫をしつつ、自分たちの暮らしの都合も考慮した仕事のやり方を、創業期のいまならゆっくり模索していけるんじゃないかなって考えたんです。

だから子供が産まれるとかは関係なく、お店の運営のあり方はこの地域の特性や季節にあわせてちょうどいい形に自由に変化させていくことが、仕事を無理なくつづけていくことになるのかなと思います。
そして、それが実際にできるのは1人だけでこの事業を始めなかったこと。関わってくれる多くの人々のおかげです。
暮らしをこしらえるって1人ではできないんだってことは今改めて実感しながら、みんなに感謝しています。

ーもしかしたら、仲間がいて「頼ってもいい安心感」こそが、新しいことを始めるために一番必要なことかもしれませんね。今日はありがとうございます。開店楽しみにしています。

萌以さんが立ち上げるおはぎのお店は、「雪のおはぎ*風花(かざはな)」と言う名前だ。

由来をきいたら、冬から春に移り変わる季節の晴天時に、どこからともなく風に運ばれてきて舞い落ちる雪「風花」から名前をとったそうです。待ち遠しい春の訪れを告げるキラキラ輝く風花のように、おはぎで地域を明るくしたいという想いをこめて店名に選んだそうです。

食べることも、仕事することも、子供を産むことも、暮らしの中の出来事として、自分と地域に合った形にこしらえていくという姿勢が、インタビューをとおしてとても魅力的に感じました。

雪のおはぎ*風花 お店情報

営業時間:現在不定期・お問い合わせください
場所:真室川町大字新町219-14
セブンイレブンの交差点を青沢峠方面に進み右側2軒目の、旧井戸川医院です。
駐車スペースに限りがあります。車が停められない場合は、ご迷惑おかけしますが真室川駅駐車場をご利用ください。
電話:0233-29-6215
公式FBページ(問合メールアドレスあり):https://www.facebook.com/kazahana.ohagi

雪のおはぎ*風花【左:外観、右:内観】