山形の若者の活躍や山形の魅力を発信する「やまがた若者応援大使」が、県内でチャレンジする若者に会いに行く『やまがた若者応援大使の"やまがた探訪"』第4弾です。

今回は「くしびきこしゃってプロジェクトの宮城妙さん」が鶴岡市大鳥地域を探訪してくださいました。

#NPO やまいろ 伊藤卓朗さん、桃与さん
【探訪者 宮城妙さん】

山間のトンネルを抜けた先に広がるのは、まるで異世界のような美しい自然。

景色に目を奪われながら、鶴岡市大鳥を拠点に活動している『やまいろ』のお二人に会いに行ってきました!

山菜利用やマタギ文化が残る大鳥地区は、限界集落と言われながらも人々は生き生きと暮らし、詩人やアーティスト、若きマタギなど個性的な移住者も多い地区です。

NPO『やまいろ』は、地域の伝統・文化を学び伝える活動をする団体で、科学者で山伏、マタギ見習いでもある代表の伊藤卓朗さんと、映像作家でアーティストの桃与さんのご夫婦が2020年に設立しました。


伊藤卓朗プロフィール
故郷鶴岡の自然と文化を愛する科学者、山伏、マタギ見習い。鶴岡工業高等専門学校、弘前大学農学部を経て、東北大学大学院生命科学研究科博士課程を修了。慶應義塾大学先端生命科学研究所にてオイル産生藻類の研究を推進。2016年より内閣府革新的研究開発推進プログラムにて広報や研究開発管理を担当。2021年より母校の鶴岡工業高等専門学校で教鞭をとる。NPOやまいろ代表理事。

桃与プロフィール
山梨県生まれ。映像作家、アーティスト。武蔵野美術大学造形学部在学中に「映像絵画」の制作を始め、在京中は映画や音楽映像の制作と自身の創作活動を並行して行う。2019年より鶴岡市大鳥に移住。2021年9月酒田市の招きで旧阿部家にて個展を開催。2022年は鶴岡アートフォーラムや王祇会館での展示を予定している。


鶴岡の知恵と文化を一つ一つ体系化していく

ー『やまいろ』について教えてください!
卓朗さん:
鶴岡ならではの良さには、長く、大きく、深い「伝統・文化」や安定した統治がもたらした「気質」、土地の豊かさが関係しています。それらを体系立てて、見えるようにまとめ、伝えていくのが僕たちの活動です。

地域に残る知恵、伝統、文化には、体系化してまとめる価値がある。その素晴らしさを証明して、どう伝えていくか。僕は科学者としての経験が活かせると考えました。

そして、伝える手段の一つとして、本質的な美しさと直感的な理解を映像で表現することで、詳細に広く伝えたい。単なる記録映像ではなく、単に芸術作品でもない、土地の良さを取り入れた映像です。「科学」と「芸術」が対話し進めるバランスが、やまいろの特徴です。

桃与さん:
やまいろの役割は、“今”を切り口を変えて扱うのではなく、時間軸を含めて考え、再構築していくことです。50年後100年後を想像して、どう生きたいかを考える。過去も100年単位でこの土地の大きな流れをとらえる。

鶴岡は、100年200年の知恵や文化が、感覚として「人」に落ちているエリアだと感じます。
一人一人が自分は何を好きなのかがわかっていて、それぞれの“好き”が地域内で排除されてこなかった。いい意味で独特の気質がある。そういう土地だからこそ、多くの在来野菜が今もなお残っているのですよね。

卓朗さん:
暮らしや感覚の中でのみ生きている伝統・文化もある。鶴岡の良さをひと言で表わせないのは、多様な豊かさの証拠かもしれません。私たちの世代が受け継いだバトンを渡すにはどうしたらいいか。伝統を学び伝えるための映像づくりを、ご縁があった地域や、自分たちが興味のある分野からはじめています。

大鳥は、一言でいうと「最高!」

40代は美しいものを見て過ごしたいと考えていた卓朗さんと、自分の創作活動を中心に環境を整えたいと考えていた桃与さんは、大鳥の環境は「最高」と声を揃えます。五感を刺激する美しい自然は、科学者がアイデアを出すのに最適な環境で、アーティストが作品作りに没頭できる場所でもあるのだそう。

ー卓朗さんは大鳥音楽祭の開催に第1回から参加されていたそうですが、移住のきっかけは?
卓朗さん:
大鳥移住の大先輩である詩人で彫刻家の嶋尾和夫さんとの出会いです。飲み屋でたまたま席が隣になったんです。当時、嶋尾さんは大鳥で毎年音楽イベントを開催していたのですが、ゆくゆくは音楽祭をやりたいと夢を語ってくれました。それを聞いて思わず「手伝うのですぐにやりましょう!」と返しました。それが、翌年の第一回「大鳥音楽祭」につながります。そして、何度も大鳥に足を運ぶうちにつながりがどんどん広がっていきました。

大鳥音楽祭の様子 photo/Kazuki Miura

ーお二人は東京で出会ってご結婚、翌年移住されたそうですが、桃与さんは、環境の変化に不安はなかったですか?
桃与さん:
私は山梨の田舎で生まれ育ち、幼少期から自然の循環の中で生きている感覚がありました。武蔵野美大では映像学科に在籍していましたが、絵を描くのも好きで、自然の感覚を形にしたいという思いがありました。絵を描くようにスクリーンを造形し、映像を投影することで時間軸を持たせる独自の表現手法「映像絵画」を編み出しました。卒業後は、フリーランスで映像制作の仕事をしながら、自身の創作活動をしていました。創作環境を整えるため「海の方へ」移住しようかと考えていた頃、卓朗さんに出会いました。海ではなく、山に来たというわけです。

移住前に大鳥音楽祭にも参加していましたが、都会とのギャップでマイナスに感じるものはありませんでした。むしろ、めちゃくちゃ楽しんでいます!

ーここでの暮らしや仕事をつくるのに、お二人でどんな話をしましたか?
桃与さん:
私が商業ベースの仕事に違和感を持ちはじめていた時に、卓朗さんから「自分のやりたいことを中心に環境を整えていった方がいいよ」とアドバイスをもらいました。アドバイスだけでなく、彼はそれを実践していました。

卓朗さん:
ベースとなるのは、「なんのために生きるか?楽しく生きたい。」という気持ち。これまでもこの気持ちを意識していましたが、さらに突き詰めたいという思いがあり、2019年にUターンしました。2021年から鶴岡高専で教壇に立っていますが、それも好きなこと・楽しいことのひとつ。10代の一番多感な学生たちと関われるのはとても素晴らしいことだし、やまいろで実現したいと考えていた「伝える」の一部でもあります。

桃与さん:
やまいろの活動は、私たちが興味があることからはじめたので、はじめはボランティアも多かったんです。それに価値を感じてくれて対価をいただけるようになってきて、自分たちのやりたいことを中心とした環境が整ってきているように感じています。

photo/Kazuki Miura

 

本質的な良さをわかる形で伝えたい

ー酒田市美術館「つくる展」での技術解説の監修や、湯田川温泉の映像制作、テクテクタクト※での映像作品など活動は多岐に渡りますが、どんな風に関わっていますか?
※テクテクタクト:荘銀タクト鶴岡で開催された、市民ダンサーによるオリジナルダンス公演

卓朗さん:
湯田川温泉の場合は、始めに地元の人たちから話を聞きながら、ここの本質的な良さを時間をかけて分析しました。そうすると、温泉観光地である事よりも、外の人が「地元感」の中に入れることが面白いのだと気づきました。そして、妻と相談しながら、それをどう映像で表現するかを考えました。
地元の人は「正面湯」からあがったら、正面にある神社のお湯の神様に手を合わせるんですが、そういった地元の人の気持ちまで伝える。地元に息づいている温泉地の日常に、観光客は入らせてもらう。その本質的な良さに共感した人が来てくれたら嬉しい。

他にも、庄内の神事や農村芸能は、集落の機能と深く関わっていると感じます。その繋がりを見える化したいと考えていて、黒川能や各地の神楽、獅子舞などの撮影取材を進めています。

ーこれからをどうしていきたいと考えていますか?
卓朗さん:
鶴岡の人の「素直さ」「研究熱心さ」といった特性はどこからきているのかを、言葉で説明できるようになりたいです。それが、なぜここには豊かな「伝統・文化」があるかを理解することに繋がると思っています。そして、それをベースに、未来を築いていけると考えています。『やまいろ』は、その土地のベースになる考え方を整理して、発信するお手伝いができるといいなと考えています。

桃与さん:
私は、これまでも自然をモチーフにして創作活動をしてきましたが、自然を形にしたいというのは実現させたいことのひとつです。
また、大鳥に来て日々強く感じているのは、物質的にも精神的にも他者との繋がりがあって成り立っているということ。大きな時間軸の中に私もいて、私のつくるものが誰かのためのものであってほしいと願っています。これまでは自分のための作品づくりだったので、大きな変化です。『やまいろ』の映像制作に関しても、大きな時間軸の中にいる文脈や、時間の感覚が人に落ちている愛おしさなど、ていねいに伝えていきたいですね。

300年以上の時を見守ってきた旧阿部家(酒田市)で開催された桃与展「そこに有るとき」

ーー限界集落と言われる大鳥に暮らしながら、100年200年先を考え活動するお二人。卓朗さんはマタギ見習いとして大鳥の人たちと山に入り、桃与さんは地域のお母さんたちに教わり山菜文化を体験しています。それらは、関わったり体験した人でないと知り得ない愛おしいその土地のよさ。

私も、なんとなくしかわからなかった100年単位での大きな時間軸をとらえる感覚も、酒田市の旧阿部家を舞台にした桃与さんの個展「そこに有るとき」で300年を越す建物と映像絵画が対話するように存在する空間を体験することで、五感で感じ取れるものがありました。伝統・文化といった地域の時間的な文脈を大切にしながら、未来を考えるお二人の活動に、これからも注目していきたいです!