参加者それぞれがお気に入りの本を持ち寄り、紹介し合う「読書会」。
そこでは初対面の人でも性別や年代関係なく、1冊の本を通して熱を帯びた会話や笑い、世間話などで不思議と盛り上がるのです。
そんな読書会を山形で主宰している、寺﨑江里(てらさきえり)さんに読書会を開催しようと思ったきっかけや、長く継続できている秘訣などを伺いました。
本を通してつながる人と場所
子どもの頃は「本の虫」と言えるほど読書好きではなかったという寺﨑さん。高校時代に国語の教科書に載っている古典作品などの「続き」が気になって図書館に通うようになったのが、本格的に本を好きになるきっかけだったといいます。
高校を卒業してからは県外の大学に進学し、岩手県盛岡市の会社に就職しました。
知らない土地で新卒での社会人生活。知り合いもおらず孤独を感じていたときに、「読書朝食会リーラボいわて」と出会いました。
「読書会の時間は唯一、人と繋がり安心できる時間、私の大切な居場所の一つになっていました」
「“人とのつながり”に飢えていた自分だったからこそ、本を通して人と話し、つながり、本から得た気づきに共感しあう刺激的な時間を過ごせる場に出会えた時、大きな癒しと感動を覚えたのでしょう」
山形はつまらないところではない
盛岡にいる時から、山形に帰ったら自分も読書会を開きたいと考えていた寺﨑さん。
「まず読書会自体が楽しいということに加えて、いろんな人と出会えたり、素敵な場所を知る事ができたのがとても大きかったです。盛岡は素敵な老舗カフェが多いんですよ。そこのマスターの方たちが個性的でとても魅力的で、参加者ともつながっているのを見て街自体を好きになっていったんです、読書会を通して。」
そしてこだわったのが、岩手と同じように会場を固定せずに毎回山形市内の“素敵な場所”を巡るというもの。公共施設をはじめ、カフェや日本庭園が素晴らしい会場、蔵の中や書店など様々な場所でおこなってきました。
もっとも、山形に帰ってきた当初は”がらんとした、つまらない場所”のように見えたそうです。でも、読書会を開こうと決めて立ち上げの準備をする中で気づいたことがありました。
「山形は、巡り歩くと素敵な場所があり、そこには必ず魅力的な人たちがいました。自分たちの住む場所を面白くしようとしている人たちもたくさんいる、ということがわかってきました。」
参加者を集めるためにしたこと
そしていよいよ「山形読書会」が始まります。
寺﨑さんはどのようにして参加者を集めたのか気になってお聞きしました。
―――このような会やマルシェなど初めて開催する時は人集めに苦労する方が多いかと思うのですが。
「初回は10名集まり、その後ずっと参加者集めにはほとんど苦労したことはないですね。
最近は特にすぐ満席になってキャンセル待ちになったりしてありがたいです。」
―――ぜひ参加者集めの秘訣を聞きたいです!
「岩手にいる時から読書会主宰の方にどうやったら開けるのかな、というのを全部聞いたんです(笑)全部真似していいよと言って下さって。」
読書会を開催するノウハウなどを教えてくれたのが「読書朝食会リーラボいわて」を主宰していた小笠原さんご夫妻。
そこで聞いたことを基に、寺﨑さんがまず始めたのが山形まちづくり塾や女性向け塾などでの勉強と人脈作りでした。
「自分のやりたいことは、“まちづくり”にも関わっていると思いました。それととにかくいろんな人に読書会の話をして誘ったり、興味ありそうな方を紹介してもらったり。そういう場に行って、まずはいろんな人と繋がること。2か月程かけて名刺を100枚くらい配って、いろんな人に来てほしいと“宣伝”しました(笑)」
会を重ねる毎にリピーターの方やSNS等で「参加して楽しかった」という声が発信されていって“だんだん知られていった”とのこと。
いろんな人に助けられて
「コロナの時期は休会したり非公式でオンライン開催にしたりしましたが、会場を借りることが困難な時にSNSで窮状を訴えると「うちを使って下さい」と申し出てくれるカフェさんがあったりして助けられました。
私自身も産休育休が重なったり、自宅がある大石田町が豪雪地帯なので休んだりしましたが、それ以外は月1回の開催を続けました」
そして「山形読書会」はこの夏、開催100回目を迎え、7月20日に山形市内の「SLOW JAM」で記念パーティーを行いました。
初期の頃から参加されている方と、1度参加した方にお話を伺いました。
●8年ほど前から参加している山本泰弘さん
「毎回いろんな人との出会いがあり、自分が読まないジャンルの本の話を聞くことができるし、知らない世界を新しく知れる楽しさがある。会場も変わるので、素敵な場所との出会いもあります。」
●5月の読書会に初参加した今田祐莉杏(ゆりあ)さん
「周囲にあまり読書が好きな人がいなくて、ここでは和気あいあいと本の話をできるのがとても楽しかった。地図帳を持ってきた方がいて、それも読書に入るんだと衝撃的で面白かったです」
―――100回まで「続ける」ことができたのはすごいと思いますが、途中でやめたくなったりしたことは?
寺﨑さん「ないです(笑)」
と即答してくれましたが、最近家庭の事情で開催が困難になったことはあるそう。
そんな中、協力してくれたのは読書会の参加者の方たち。会場予約や、100回記念パーティーでもいろんな方からのお手伝いがあり、ここまでやってこれたと感慨深く話してくれました。
「2回ほど開催自体をしてもらったこともあって、やってくれる人がいればお願いしています。」
自分がやる、と気軽に手をあげられて、その人にお任せして頼ることができる。そんなお互いの信頼関係と思いやりがあってこそ、読書会が長く継続されているのでしょう。
新たな広がりを見せる読書会
「本が好きじゃない人でも、読んだ人の話を聞いて話すだけでも楽しい。本は初対面の人とも気軽に話せるツールになります。
山形読書会が、参加する方々にとって、本を通して魅力的な“場所”や“人”と繋がれる場所になれればいいなと思っています」
毎回自分も楽しくてこれからもずっと続けていきたいという寺﨑さん。
―――今後200回、300回と継続を目指す上でどのような会にしたいですか?
「初めての人でも行きたい時に気軽に来れて楽しめる場。私にとって岩手の時がそうだったように、その人のサードプレイス(第3の居場所)になれればいいですね」
山形読書会での参加者が自分で新たに別の読書会を開く人もいるそうで、本を通した、人との更なる繋がりにも発展していました。
寺﨑さんが山形で蒔いた「種」は確実に花を咲かせてその広がりを見せています。
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取材協力(撮影):にぎわい創造活性化施設『LinkMURAYAMA』
取材執筆:庄司ひとみ