山形県上山市は、江戸時代には宿場町や温泉郷として栄えた人口3万人弱の市です。
近年まで、上山温泉には多くの観光客が訪れてにぎわいを見せていました。
しかし、全国的な景気や人口減少などさまざまな要因により、観光客も減って、徐々に旅館の数も少なくなっていったそうです。
そして、残ったのは、点在する空き家たち。
それを何とかしようと活動をしているのが、「NPO法人 かみのやまランドバンク」です。
NPO法人 かみのやまランドバンクは、令和元年に設立されたまちづくり団体。宅地建物取引業の専門家や建築士、市職員、大学など、官民問わずスペシャリストが集まり、上山市の空き家、空き地の利活用推進をおこなうために設立しました。
現在の会員は30名ほど。上山城周辺を中心に、開業や創業したいという方の空き家の利活用をサポートする事業を展開しています。ただ空き家に人を入れるだけではなく、長い目線で街のにぎわいを共に作っていくこと目指した取り組みです。
「かみのやまを社会実験で盛り上げる!」を掲げ、空き家を使って何かをしたい人と、それをお手伝いするプロ(会員の建築士、建築業者など)をマッチングする調整役も担います。
今回は、かみのやまランドバンク副理事長の鏡 昌博さんに上山市に“仕掛ける”手法を伺いました!
鏡 昌博さん
かみのやまランドバンク 副理事長/上山市建設課 エリアマネジメント推進係長
上山市出身。かみのやまランドバンクの仕掛け人。市職員という立場を生かしつつ、上山市の担い手育成に注力中。
ランドバンクとは一般的に、事業者が空き家、空き地のまとまった土地を再編し道路の拡幅や宅地分譲をするミニ区画整理事業のこと。
しかし、かみのやまランドバンクは、まばらに発生する空き家の実態を踏まえ、ランドバンクの事業化に向けた魅力づくりとして空き家リノベーションを推進しています。
「そもそも、空き家はバラバラの場所にあるから、一帯を買い取って壊して再分譲とはいかないんです。この取り組みを始めた当初、なぜ空き家ができるのか理由を考えました。思い至ったのは、やっぱり魅力がないところには人は集まらないという単純な話でした」
魅力を作るには、その担い手が必要。
担い手とは、上山市を活気づけてくれる店舗事業者やイベンターなど、「楽しい」のつくり手です。
とはいえ、何かをしたいという人も、いきなり空き家を使って開業したり、空き地でイベントをしたりというのはリスクもあるので、難しいものです。何事も、まずは「試し」にやってみる。その機会を、かみのやまランドバンクでは実際の空き家を使えるレンタルスペースの貸し出しと、マルシェへの出店という形で準備しています。
開店に向けて、実際の空き家を模擬的に利用し、自身の料理や商品を提供する機会を設け、その段取りやお客さんの用意はかみのやまランドバンクが。アンケートによるフィードバックや課題の洗い出しをして、ブラッシュアップを重ねます。
試すことで、ある程度のスキルやノウハウを蓄えることができ、“自分の店を持つ”というビジョンを醸成していくことができるのです。
「相談が来たら、私たちは『すぐに開業しましょう』ではなく、一年後を目安に話を進めるんです。その間、レンタルスペースを使ってもらったり、マルシェに出店したりして、その次のフェーズとして店を持ちたいとなれば、空き家バンク物件や空き家リノベーションを進めるうえで必要なランドバンク会員の建築士や建築業者、市が行う助成金などを紹介します。
実際に空き家を使いたいと思った時、物件はたくさんあるので、選ぶのは不安だと思います。その時に行政やプロが伴走してくれると安心してもらえるかなと。最近は手伝ってほしいという相談が来るようになりました」
お店がオープンした後も支援を継続し、できた担い手たち「個」を繋いでコラボレーションの機会を作ったり、企業間で新たな商品開発に繋げたりというにぎわい創出や、上山市の新たな魅力づくりのお手伝いもしてます。
「一緒に町づくりをする担い手を育て、プロデュースをする広いプラットフォーム」が、かみのやまランドバンクのもつ役割です。
上山市に新たにできたにぎわいスポットをご紹介!
山形県上山市新湯5-13
休業していた共同浴場「澤のゆ」をかみのやまランドバンクがリノベーションし、リニューアルオープンしました。
リノベーションの際には、新たな「にぎわい・交流を創出」する場となるよう、ロゴやタオルなどのリブランディングをおこないました。昔の雰囲気を残した内装の中、ゆったりとお風呂を楽しめます。
山形県上山市矢来1-3-1
かみのやまランドバンクがプロデュースを手掛けたそば屋&カフェ。趣味でそば作りをしていたオーナーさんが、自分の店を持ちたいと始めたお店です。
お昼時はそばタイム。その後はカフェタイムと時間を分けてそばとデザートを提供しています。
「空き家対策は、空き家を利用したい人、維持したい人、売りたい人、さまざまいます。その時に上山市で初めて開業する人が安心して相談できるのは、行政なんですよ。ただ、活用する手法や相続問題、リノベーションする建築技術などのハードルに対する解決力があるのは民間なんです」
行政、民間、学校の三者が手を取り合って運営するNPO法人としてのランドバンクの形は、他に類を見ないだろうと鏡さんは言います。
「やろう」と声をかけて実際に動き、人を集めることのできる人財は貴重です。
上山市には鏡さんがいて、協力してくれる仲間がいました。
協力者は現在も増え続け、市内に関わらず、コラボレーションが生まれていく予定だそうです。
今仕掛けている大きなものは2つ、と鏡さん。
一つ目は、村山市にあるカフェ兼ゲストハウス「kiwa」のチームとのコラボレーション。村山市内外の面白い人が集まり、人を掘り起こすことに長けたkiwaと、物件を紹介できるかみのやまランドバンク。この二者でどんなにぎわいが生み出されるのか、注目です。
▼「kiwa」については過去の取材記事をご覧ください。
もう一つは、現在プロデュース中というサイクルステーション&カフェ。街をめぐるための自転車の貸し出しを行っている上山市内で、子育て世代がサイクリングの途中で気軽に休息ができ、地元の食べ物が食べられる拠点をつくりたいという方の創業をサポートしています。
お弁当の試食や模擬出店なども行い、ブラッシュアップ中とのこと。オープンはまだ先の予定ですが、こちらも完成が楽しみです。
空き家の利活用によって目指す最終ゴールは、空き旅館に新規利用者が入ること。旅館が利用されるようになるには、ある程度の観光客が見込めなければいけません。
観光客が来る街は、すなわち魅力のある街です。
かみのやまランドバンクの取り組みやそれに感化された市民によって、現在上山市では毎月、定期的にマルシェが開催され、それ以外にも新規オープンのお店など話題は増えてきました。しかし、これもまだ準備段階。
「私はずっと街中で育ってきたので、上山市は温泉街のイメージがあるんです。昔は休日だけじゃなく平日も、浴衣を着て下駄をはいて歩いている人がいました。その懐かしいイメージをもう一度よみがえらせ、平日も人が街をぶらぶら歩いているような上山市を作りたいです」
行きたいお店を歩いて回る、そんなぶら歩きができる街になるように、長い目で見て日常的ににぎわいをつくる担い手の育成を、これからも続けていくという鏡さん達「かみのやまランドバンク」。
上山市城下町スイーツ食べ歩き、なんて素敵ですよね。
今後も上山市の話題に注目です!