「人が来て、場を作って、知恵を使って『冒険』がおきる。」
今月の取材は米沢市にあるコワーキングスペース「スタジオ八百萬」です。オープンから7年半がたち、地域の繋がる場として全国から人が訪れる施設となりました。しかし、オープン当時は誰も来なかったそう。
現在の繋がる場に至るまで、どんな冒険があったのか。コワーキングスペースを経営する山田茂義 さんに、その旅路を取材してきました。
山田 茂義 / Yamada Shigeyoshi さん。
米沢市の八百屋で生まれたが商売は継がず、埼玉の大学へ。卒業後は米沢の会社で半導体や画像認識のハードウェア開発に長年勤務。米沢と茨城を行き来しながら現在使われる車の画像認識技術の礎を築いた。開発職の「人と人をつなぐ」経験を活かし、2014年44歳の時にスタジオ八百萬を開設。今に至る。
*退職して、大学に通う
*オープン直後の悲劇
八百萬、はじめの一歩。
*芸工大の先生に恐る恐る相談、、、
実践者を繋いでいく場所「八百萬」
*人と地域をつなぐ事業
*スパイスカレーのキッチンカー
おわりに
*小さな場所から、冒険を
*退職して、大学に通う
長年勤めていたハードウェア開発の仕事を40代で退職した山田さん。何か「地域のためになりたい」と考えた末、東北芸術工科大学(山形市。以下、芸工大)の聴講生として学ぶことを決めました。
「聴講生」とは好きなだけ講義を受けることができ、デザイン系や美術系の講義を行き来できる立場。
その中でも、山田さんはデザイン系の講義を多く受け、企画や事業のつくり方などを学んだといいます。
「学ぶのが楽しかったんです。どの講義も受講できたのですが企画系が多かったように思います。今はコロナで通えていないのですが、かれこれ9年目となりました」
9,9,9年目。
学部生の2倍以上も大学通いとは、、、驚きです。
学んで一年が経った、2014年11月。
それまで培った関係構築スキル・人脈・親から継いだ土地をもとに立ち上げたのが、コワーキングスペーススタジオ八百萬でした。
*オープン直後の悲劇
スマートフォンが普及して間もない2014年、「コワーキングスペース」はようやく都心部に生まれた頃でした。
「やってみないと分からないの精神で、取り敢えずやってみることにしました。親から継いだ建物を若い大工さんと相談しながら改装し、椅子や机を並べて、、、」
誰が来るか想像もつかないまま始めた山田さん。
しかし、、、
「やり始めたら、びっくりするくらい誰も来ませんでした。💧」
途方に暮れながらネットサーフィンで独り、過ごす日々。
「一日数人はお客さんが来るだろう」という希望が砕けたところから、八百萬はスタートしました。
コワーキングスペースの認知が進まず、さすがにまずいと、はじめの一歩に出ます。
「あの、、、お願いがありまして」
*先生に恐る恐る相談、、、
「これまでの講義が面白かったので、ぜひ社会人向けにも講座をしていただけないでしょうか。それで講師料はどのくらいに考えたらよろしいでしょうか…」
「時間さえ合えば大丈夫ですよ。」
「予算があまりないでしょうから、そちらから提示していただければ良いです。地域の復活は、私の一番大事なことですから。」
そう返事をしたのは、チョコレートの「キットカット」のブランディングを成功させたことで有名な関橋先生でした。
マーケティング、ブランディングの仕事に長年携わる。受験のお守りとしてお馴染みの「キットカット」を手掛けた
芸工大で教授を務めていた関橋先生に、山田さんが相談。
この動きが功を奏し初回にして全国から40人を超える受講者が集まりました。
続けるように「クラウドファンディング」や「映像の企画」などのセミナーを開き、徐々に認知を広めます。
そして受講生から「私も何かやってみたい」の声があがったとき、彼らをサポートする場として、場所としての機能が徐々に広がっていきました。
今ではたくさんの入居者・プロジェクトが集っている八百萬。
同じように注目されたのが、東京都市大学 坂倉杏介 准教授が講師をつとめる「人と地域をつなぐ事業」でした。
*人と地域をつなぐ事業
「地域のために」と聞くと、何か目的をもって肩肘張ってイノベーティブ(革命的なこと)なことをしなければならないという印象がありますが、そうではありません。
人と地域を繋ぐ事業(主催:置賜広域行政事務組合)では「ゆるふわ」を大切にしています。
人と地域を繋ぐ事業(主催:置賜広域行政事務組合)
「ゆる」とは、決まった「型」に合わせるのではなく、多様なものが許され、包摂できる寛容性があること。すなわち、開かれている場です。
「ふわ」とは、あらかじめ見えていることを目標にするのではなく、まだ無いもの、言葉になっていないものを探索的にみんなで考えていくこと。すなわち、未来志向です。
キーワードが「ゆるふわ」のこの事業では、講座を通して地域に住む人との信頼関係をつくっていきます。
自分自身が地域でどう生きていきたいかを大切に、信頼関係から生まれる気づきや、新しいアイデア発見を活かす。自分のためと地域のためになることを実現しているといいます。
年3回の講座に集まった受講生は、自分と地域に目を向け仲間と対話を重ね、1年間の講座を終えると晴れて修了。
修了後は各々の活動を続けたり、次の受講生のサポートに回ります。
地域の空きスペースを使って出店するスパイスカレーのキッチンカー「THE CÖSA」の店主濱田さんも、この事業の修了生でした。
*スパイスカレーのキッチンカー「THE CÖSA」
昨年度この事業を修了した濱田さんは、地域の空きスペースでキッチンカー事業にチャレンジしました。
人気メニュー2種のあいがけカレー
新潟から帰郷したばかりの頃、地域に活気を生み出したいと思っていた一方で「地域のために動く同世代が少ない」と感じたという濱田さん。
「地域の中のコミュニティでいかせないかと思ってカフェの間借りから始めました。」
「夜は常連の方々がお酒を持ち寄り、片付け前に飲み会が始まることもあります。笑」
濱田さんはキッチンカーという場所を通して、地域の人と挨拶ができる関係を築き上げていました。
この状況に山田さんは、
「知恵を絞ったり工夫したりすることで、結果として成長することを『冒険』と呼びたい。僕は仲間と集まってその冒険がしたいんです。」
「誰もがその仲間がみつかり冒険を後押しする場をつくるのが、僕の役目です。」
やりたいことを実現させたい。
濱田さんのような人の背中を押し、一緒にやってくれるのが八百萬という場所のようでした。
*小さく始めてみて
自ら地域のためにアクションを起こす地域活動や、まちづくり。
しかし実際に何から始めていいのか、誰とやっていけばいいのかが分からないという人が数多くいます。
そんな人に向け、山田さんは「小さく始めること」が大切だといいます。
「一歩でも踏み出してみると、見える景色が変わります。やる前は出来そうにないと思っていたことでも、『あれ?』と思うほど道筋が見えたり、助けてくれる人が現れたりします。」
「周りにその過程をオープンにするのも良いですね。」
今できることから、少しずつ。
「バタフライエフェクト」という言葉があるように、蝶の羽ばたきのように小さな取り組みでも、やがて竜巻を起こすように世界を変えるかも知れません。
肩肘張らずにできることをやってみる。
次へ次へと進んできた八百萬の旅路は、小さくても長い冒険者たちの道でした。
カレーを買いに来たお仲間の三輪バイクに試乗する山田さん
コワーキングスペーススタジオ八百萬。皆さんもぜひ一度、訪れてみてはいかがでしょうか。
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